交通の安全と労働を考える市民会議(ライドシェア問題を考える市民会議)は6月14日に、愛知県・名古屋市「栄ガスホール」に地方議員及び有識者、事業者、運転者、利用者など約150人が参加し、公開シンポジウムを開きました。
冒頭、東海労働弁護団幹事長の後藤潤一郎弁護士があいさつに立ち、「ライドシェア問題については、まだまだ深い問題について理解出来ている人は少ないが、われわれ市民が『便利だ』というマジックに引っかかって、安全や安心を犠牲にした生き方を余儀なくされないように、しっかり学び、社会に広く訴えていこう」と述べました。
次いで、名古屋大学環境学研究科の加藤博和教授を講師に迎えて、「持続可能で安心・安全な『おでかけの足』のつくり方」をテーマに講演を行い、ライドシェアの問題点及び既存のタクシー・バス事業者への改革の提言などについて、説明をいただきました。
講演では、
「市民は『おでかけの足』について、どれだけ自分の問題として捉えているか。ほとんど考えていないのが実態だ。公共交通は与えられる環境で、自分達が創りあげるという意識は希薄だ。どうすれば、市民の方に自分の問題として考えてもらえるか。
一方で市民が考える必要があるのかという視点もある。公共交通の維持・発展を考える上で、その視点を明確にして、今後の戦略・戦術を考えていくことが重要だ」と述べた後
名古屋市の一部地域の状況を紹介し、「都市部に住んでいる人は、駅前にタクシーがあるのは当然と思われているが、名古屋市内でも地域によっては繁忙の時間帯に駅前にタクシーが無い時がある。地方ではさらに状況は深刻だ。時間帯や曜日等による需給ギャップも非常に激しく、市民の『移動したい』という希望にきちんと応えられていない。
また、名古屋市ではタクシーの運賃値上げが行われたが、新聞報道では『不当ではないか』という論調であり、世間ではそう見られている。一方で宅配の値上げの議論では、世論的には理解されている風潮だ。タクシー業界が置かれている事業状況について世の中に理解されていないということだ」と述べた。
また、「ライドシェアについては、これまでも過疎地域などで自家用車を使った有償運送は行われており、どうして今になって大騒ぎしているのだ。たしかにライドシェアは違法性は強いが地域の実情を考えると拒絶出来るのか。過疎地域で『バスやタクシーが無く、移動出来ないので、ライドシェアを導入する』と言われれば反対は出来ない。逆に言えばバスやタクシーの協会等が、そういった地方の足を守るためにこれまで何をしてきたのか。事業者は安全・安心だけでなく、公共交通としての役割である『市民の足』を守るための努力が求められており、これまで市民や自治体など地域ときちんと連携してきたのかと問いたい。地域と連携することで運賃の値上げについても、市民の理解を得ることに繋がるではないか」とバス及びタクシー業界に苦言を呈し、
「参入条件が高くなく、様々なニーズもある筈なのに進化していない業界は外からすると魅力的であり、これがライドシェアが国内に入ってこようとしている要因の一つだ。交通事業者が生み出す付加価値が非常に低いことで、大きな利益を得られず、労働条件が低くなる。結果として運転者が集まらず、『移動したい』『観光したい』というニーズに答えられなくなっている。解決するには、事業者は旧態依然ではダメで、地域が何を求めているかを考え、それを提供するとともに、自分達が行っている取り組みを発信し、バスやタクシーが『地域を支える仕事』という誇りと尊敬を受ける職場にしていかないといけない」と訴えました。
さらに、ライドシェアの問題点については、「市民は安全・安心は当たり前で、くわえて便利でお得感を望む。特に安全・安心は無料という認識が強いため、安全・安心は公的に担保していかないといけない。安全・安心を担保出来る交通インフラがライドシェアのように短期的な市場原理とITモニタリングで実現出来るとは思えない。業界として安全・安心を確保するための経験の積み重ねが生まれない仕組みであり、これが恐ろしい」と指摘しました。
続いて、市民会議事務局の川上弁護士がシェアリングエコノミーの詳しい内容及び海外の最新事例等について触れ、「シェアリングエコノミーについては、詳しい解説も無く、単純に便利だから安いからと良いイメージを報道していることが多く、加藤教授の講演で紹介された各地方での地域の足を守る取り組みについては全く報道されない。市民会議等の活動を通じて、社会に問題を訴えていかなくてはいけない」と提起し、盛会裏に終了しました。
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